我孫子の課題、そして希望。

我孫子市の子育て支援、空き家、町並み、高齢化の課題を市民目線で考える地域ブログ。



コンビニ撤退から始まった「賑わいプロジェクト」

千葉県我孫子市の手賀沼公園そば「ABISON」 コンビニ撤退跡地に、我孫子市が土地を借り上げ施設を新築した。

手賀沼公園のすぐそば、公園坂通り沿いに、ひときわ目を引く白い建物があります。
名前は「アビソン・シュガー・ガーデン(ABISON)」。
実はこれ、市が「地域活性化」の名のもとに整備し、4つのレストランが入る飲食施設です。

この場所には、かつてコンビニがありましたが、2021年に撤退。
「失われた賑わいを取り戻そう」と、市は土地を借り上げ、施設を新築して2022年に出店者を募集しました。
しかし、最初の募集はまさかの応募ゼロ

そこで市は、月約50万円の家賃補助をつけて家賃を下げ、再募集。
さらに施設改装や備品購入などの開業支援に約4,000万円を投入しました。
その結果ようやく入居者が決定。

つまり、契約期間5年間で

  • 家賃補助:約3,000万円
  • 開業支援:約4,000万円

合計 約7,000万円が、この4店舗のために使われている計算になります。

※ 施設の建設費や専用サイト作成費用などは含まれていません




「店を作れば賑わう」って本当?

ABISONが掲げた目標は、「通りの賑わいを取り戻す」こと。
でも現実は…大繁盛とは言い難い。
少なくとも、7千万円もの税金を投じた分だけの“賑わい”が生まれたかといえば、首をかしげる人も少なくないはずです。

では、そもそもなぜこの場所にあったコンビニは撤退したのか?
理由は単純。
儲からなかったから――つまり、人通りが少なかったからです。
人が歩かない道に店を作っても、売上は伸びません。これは商売の鉄則です。

実は、我孫子市はこれまでも「商店街活性化」を旗印に、最大100万円の起業補助金を用意してきました。
しかし、その結果どうなったか。
オープンから数か月でシャッターを下ろす店が出てしまう――そんなケースが後を絶ちません。



本当の「賑わい」はどこから来るのか? 麻布十番と丸の内の違い

「賑わい」とは、何から生まれるのでしょうか。
ただ店を作れば、人は集まるのでしょうか。

この問いに生涯をかけて挑んだのが、アメリカの経済学者であり、子育て中の母でもあったジェーン・ジェイコブズです。
彼女の代表作『The Death and Life of Great American Cities』は、半世紀以上前に出版されたにもかかわらず、今もアマゾンの都市計画部門で売上1位を誇ります。

ジェイコブズが導き出した答えは、明快でした。
“多様な用途(diversity of use)”こそが、街の賑わいを生む。

用事の異なる人が、異なる時間帯に街を訪れる。
そうすることで朝から夜まで、平日も休日も、人の流れが途切れない街になるのです。
逆に、ただ店や公園を作るだけでは、本当の賑わいは生まれない――彼女は全米の都市を歩き、その事実を数えきれない事例で示しました。

では、この「多様な用途」がどう働くのか。
身近な例で見てみましょう。

麻布十番

麻布十番は平日も週末も一日中人の流れがある 出典: Livingin, Ltd.


住宅もあれば、小さな会社や古い商店街もある。
赤ちゃん連れのママが昼間に買い物をし、高校生が放課後に集まり、夕方には会社員が帰り道に立ち寄る。
夜はカップルや観光客がレストランやバーに流れ込む。
平日も週末も、朝から夜まで街は息づいています。

丸の内

週末の午前中、閑散とした丸の内。週末に人の流れを生むため、大規模な再開発が行われた。出典 Tripadvisor


整然としたオフィスビルが並ぶ、日本屈指のビジネス街。
平日の日中はスーツ姿の人々で賑わいますが、夕方以降は潮が引くように人影が消えます。
週末はさらに静まり返り、千代田区の昼間人口は夜間の実に13.5倍――まさに「一時的な賑わい」です。


消えた我孫子市のにぎわい 〜昭和期に開発されたベッドタウンが辿った運命〜

我孫子市の湖北台団地。昭和40年代に開発された。近くの商店街はシャッターが目立つ。出典: Google Map

かつて、我孫子市には人の声と笑い声があふれていました。
駅前の商店街には買い物袋を提げた人々、団地の広場には子どもたちの元気な声。
あの賑わいは、一体どこから生まれ、そしてどこへ消えてしまったのでしょうか。

その源は、「若い世帯」でした。

昭和期、東京のベッドタウンとして一斉に開発された我孫子市の団地。
そこには職場も、公立校以外の教育機関もほとんどなく、まさに「住むためだけ」に造られた街でした。

同じ時期に引っ越してきた若い世帯が、子育てや日常の買い物で街を満たし、一時的に活気を生み出しました。
しかし、あれから数十年。子どもたちは巣立ち、今では高齢化が急速に進行。
昼間の街には人影がまばらで、静寂を破るのは救急車のサイレンばかり――中心部から離れた市内の団地では、そんな光景も珍しくありません。

もともと「多様な用途」を持たなかった我孫子市は、唯一の賑わいの源だった若い世帯を失い、今、かつての活気をすっかり失いつつあるのです。



補助金は賑わいを生むのか 〜我孫子市のシャッター商店街を歩いて〜

「店を作れば賑わいが生まれる」
「賑わいを生むために補助金を出す」

こうした取り組みに、我孫子市だけでなく全国の自治体が税金を注ぎ込んできました。
我孫子市でも、シャッター商店街に出店する場合、最大100万円の起業補助金がもらえます

けれど――その成果は、本当に出ているのでしょうか。

ある日、私は市内のシャッター商店街を歩いてみました。
かつては八百屋や魚屋、文房具屋でにぎわったはずの通り。
今は、昼間でも人影はまばら。シャッターの閉まった店舗が続き、開いている店も客は少なく、静けさだけが流れています。
「補助金で店を開いた」という場所も、数か月で閉店した跡が残っています。

その光景を目の当たりにして、思ったのです。
本当の賑わいを生むには、そこに“理由”がなければならない。
ただ店を並べるだけでは、人は来ない。
日常的に、住んでいる人以外も訪れる用事が必要なのです。

たとえば——

  • 小規模な語学学校や職業訓練校(通う理由がある)
  • 医療・福祉・軽作業などの事業所(働く理由がある)
  • 地域外から通学・通勤する人を増やす仕組み(関わる理由がある)

「用事のある人」が増えて初めて、商店街は朝も昼も夜も息を吹き返す。
そう感じた一日でした。


我孫子市に人の流れをつくるには? 現実的なハードル

我孫子市の湖北駅。成田線は30分に1本しかなく、決して便利な場所とは言えない。出典: Wikipedia

とはいえ、課題ははっきりしています。
我孫子市で「活気がない」と言われるエリアの多くは、古い団地が集まる地域です。
交通の便は正直よくありません。我孫子市を走る成田線は30分に1本。
「我孫子駅が最寄り」とはいえ、実際にはバスか車でないと行きづらい場所も多いのです。

そんな場所に、人はちょっとした用事では足を運びません。
「おいしいカフェがある」と話題になっても、最初の数週間は賑わっても、その後は足が遠のく――そんな光景は珍しくありません。

だからこそ必要なのは、“毎日行く理由”です。
話題性ではなく、日常生活に組み込まれるような目的。
それは例えば、学校レベルの「必ず行く場所」。近所のコンビニみたいに「毎日行く場所」。
この規模の需要があって初めて、人の流れは途切れず続くのです。

廃校を「カフェ」にする前に 〜人の流れを生むという発想へ〜

統廃合が検討されている学区にある布佐南小学校 出典: Google Map

学校や交流拠点をつくるには、建物が必要です。
けれど、小規模な学校に更地から校舎を建てる資金力はありません。
交通の便が悪い場所なら、わざわざリスクを負って移転してくる学校もないでしょう。
オフィスビルもほとんどない我孫子市では、なおさらです。

そこで市がやりがちな手が、「税金でビルを建て、補助金で誘致する」。
けれど、これではABISONと同じ道をたどります。
補助金で無理やり需要と供給をねじ曲げても、自然な人の流れは生まれません。

だからこそ、発想の転換が必要です。
今ある資産は何か――それが、使われなくなる校舎です。

布佐地区では、統廃合による廃校が検討されています
地域の人たちは「学校がなくなれば、まちがますます寂れる」と心配しています。
その不安は根拠があります。茨城県で行われた研究では、廃校が地域の高齢化や過疎化を加速させる傾向が確認されているのです。

もしこの校舎を「カフェ」や「マーケット」にすればどうなるか。
通りに人の流れがない今、繁盛する可能性は薄く、税金だけが消えていくでしょう。

にぎわいが欲しいなら、まず“人の流れ”をつくる。
たとえば廃校を専門学校や職業訓練校として活用し、学生寮への転用も認める。
賃料は維持管理費+最低限の共益費だけにして負担を軽くする。
教室と住まいが同じ敷地内なら、遠方からも人が集まります。

空き家やシャッター商店も「商売を入れる」発想を捨てましょう。
団地の中に冷暖房完備のちいさな図書館や児童館をつくる――本が読めて、パソコンが使えて、子どもが遊べる。
赤ちゃん教室や工作教室、パソコン相談会が定期的に開かれる。
そんな場所があれば、自然と人は集まり、笑い声が生まれます。

神戸市で戸建て改修しできた私設図書館「世界のはしっこ」 子どもたちに愛されている。出典: まちライブラリー

「にぎわい=店」という思い込みから抜け出すときです。
本当に必要なのは、人が集まる理由と流れをつくること。
発想を変えれば、きっと地域の未来は変わります。

私設図書館「世界のはしっこ」を企画・建築した、建築家の秋松麻保さん。築40年の戸建てを改築した。出典: LIFULL HOME’s
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